1. HOME > 
  2. 学会について > 
  3. 会長・理事長挨拶

会長・理事長挨拶

会長就任の挨拶

2025年6月7日
狩野 裕(同志社大学)

この度,2025年6月の理事会において日本統計学会会長に選出されました.日本統計学会は1931年に設立された歴史ある学会で創立100周年も視野に入ってきました.その伝統ある学会の会長に選出されたことはこの上ない名誉であります.照井伸彦前会長と歴代会長のご功績を引き継ぎ,青嶋誠理事長をはじめ理事,監事,代議員と学会員の皆様からのご協力を得ながら学会のために微力を尽くす所存です.引き続きご指導ご協力をよろしくお願い申し上げます.

最新の会報(2025/4/30発行)によると日本統計学会の会員は1,470名で,決して多いとは言えません.たとえば,米国のASAが19,000名,英国RSSが11,000名,韓国KSSが6,000名であり(いずれも概数),人口当たりに換算するとより差は開きます.日本でデータサイエンス(DS)という用語が市民権を得た昨今でも統計学関連学会の会員が増加したようには見えません.当然ながら,学会は規模が全てではありません.しかし,統計学やその関連分野は相当に広く,それらをカバーしそれらの発展に寄与するためには,会員増を図り会員間のコミュニケーションを促進する必要があるのではないでしょうか.

従来から,なぜか我が国は統計学の認識が高くないように感じています.文部科学省主導で行われている小学校・中学校における統計分野の充実,高等学校における統計教育の実質化,データサイエンス関連学部・学科の新設,統計学・DS の指導者・教育者の強化プログラムなど好ましい限りです.これらをバネに,我が国でも,統計学・DS の認識がより高まり,統計学・DS が文化や産業を活性化し国民各人のQOL の向上に資することを切に期待します.

そのために今重要なことの一つは,機械学習・人工知能(AI)を統計学・DS に有意義に取り込むことではないでしょうか.AI は実務にそして研究のツールとして極めて有用で,要約,翻訳,画像処理,文章・画像・動画生成,プログラミングなどにおけるコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスの改善に重宝されているのはご存知の通りです.AI が執筆した論文が査読をパスしたという報道も記憶に新しいです.統計学の発展を振り返るとき,計算機(PC)環境のドラスティックな発展に触れないわけにはいきません.20世紀半ばから SAS SPSS に代表される汎用プログラムが開発され統計実務や実証研究に貢献しました.つづいてそれら汎用プログラムのPC(含ワークステーション)への移植, PC 向けに開発されたプログラム(SAS JumpS,エクセル他)の登場があり,統計関係者を人力による計算とグラフ描画から解放しました.昨今は,R Python 等オープンソースの統計解析プログラム言語の開発・提供へと進んでいます.結果として,統計学・DS のエンドユーザが広がりました.しかし,計算機統計学と云われる学問の本質的なrevolutionは,Bootstrap法や各種Monte Carlo法に代表されるシミュレーション技術との融合ではなかったでしょうか.AIの発展が,コストパフォーマンス・タイムパフォーマンスの向上に留まることなく,AI 統計学と名がつくに相応しいrevolutionをいかにして生み出していくか,日本統計学会がその中心的役割を果たせるよう環境を整えることができればと思慮しています.

会長略歴:
狩野 裕(かの ゆたか) 工学博士(1986年,大阪大学)
現職 同志社大学 文化情報学部 特別客員教授
1994年 筑波大学 数学系 助教授
1997年 大阪大学 人間科学部 助教授
2004年 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授
2017年 大阪大学 大学院基礎工学研究科長・基礎工学部長
2022年 大阪大学 数理・データ科学教育研究センター長
2022年 日本行動計量学会理事長
2024年 同志社大学 特別客員教授,現在に至る
研究分野:
統計学,データ科学,行動計量学,数理統計学,多変量解析,統計教育

理事長就任の挨拶

2025年6月7日
青嶋 誠(筑波大学)

このたび,理事長として日本統計学会の運営をとりまとめる責務を担うこととなり,身の引き締まる思いでおります.本学会は,1931年の創立以来,わが国における統計学の発展を牽引してきた歴史と伝統ある学会です.私自身,これまで評議員,代議員,理事を務め,和文誌編集委員長,欧文誌編集委員長,ならびにJapanese Journal of Statistics and Data ScienceJJSD)編集委員長を歴任し,学会活動に継続的に関わって参りました.こうした歩みを通じて培ってきた経験と知見を踏まえ,理事長としての責務を誠実に果たして参りたいと存じます.

統計学は,時代とともに常に変化し続ける学問領域です.その根底には不確実性を扱う知の体系があり,理論の厳密さと応用の柔軟さとを兼ね備えた稀有な性格を有しています.近年では,ビッグデータや AI 技術の急速な進展により,統計学の果たす役割は一層重要となっています.新たなデータ環境は,私たちに技術的進化をもたらす一方で,倫理,信頼性,公共性といった根源的な問題にも直面させています.統計学はいま,量的拡大の時代から質的深化の時代へと移行しつつあるのです.このような時代状況を踏まえ,私は次の三つの基本的方針のもとに学会運営に取り組む所存です.

1.統計学の学術的基盤の一層の強化

統計学が他分野との連携において豊かな成果を挙げ続けるためには,これまでに築かれてきた厳密な理論的基盤を一層強化し,深化させていくことが重要です.現代的課題に応じた新たな理論的展開にも積極的に取り組んでいく必要があります.学会として統計関連学会連合と協力して,国際関係事業を推進するとともに,数理的基盤を強化することは,学会の将来にとって大きな意味をもちます.日本数学会,日本応用数理学会とも協調関係を深め,数理的手法の共有と相互理解を促進し,統計学の学問的自立性と創造性を支えて参ります.

2.教育・人材育成と統計リテラシーの向上

今日,統計的思考とデータリテラシーは,研究者のみならず一般市民にとっても不可欠な基礎素養となっています.初等・中等教育への統計教育の導入,高等教育におけるカリキュラム整備,そして生涯学習としての統計教育の再構築は,まさに今を生きる社会の要請であります.本学会としては,統計教育委員会,質保証委員会の活動を通じて,また統計検定の実施母体である一般財団法人統計質保証推進協会との連携を推進して,教育支援活動をさらに強化して参ります.

3.統計学の社会的信頼の確立と公共性の追求

統計学は,社会の意思決定を支える知の公共財としての側面をもっています.統計的情報の適切な解釈と活用は,政策立案,医療,産業,報道など,あらゆる場面において問われています.しかし一方で,誤った統計の使用や恣意的な解釈,さらには統計そのものに対する不信が拡がる場面も散見されます.本学会は,行政統計の在り方に関する提言,メディアや教育界との連携,そして社会に対する広報・啓発活動など,多様なステークホルダーとの建設的対話を通じて,統計学の信頼性と有用性を社会に発信して参ります.

以上の三点を柱とし,狩野裕会長をはじめ,厚く信頼を寄せる心強き理事会の諸先生方とともに,着実にして活力ある学会運営を推し進めて参る所存です.あわせて,運営におきましては,透明性と公正性を基本理念とし,多様性と包摂性を尊重する観点から,ジェンダー平等の実現,若手研究者の育成支援,さらには学会の一層の国際化にも鋭意取り組んで参ります.統計学の本質は,不確実性を受け入れつつも,その中に秩序と規則性を見出す知の営みにあります.その姿勢は,多様な価値観や背景を包摂し,共に学ぶ社会のあり方とも深く響き合います.私たち統計学者は,この不確実性の時代においてこそ,学問の良心として社会に貢献しうる存在でありたいと願います.今後とも,本学会の発展のため,皆様のお力添えを賜りますよう,何卒よろしくお願い申し上げます.

理事長略歴:
青嶋 誠(あおしま まこと)博士(理学)
1962年 静岡県生まれ
1992年 東京理科大学大学院理学研究科博士課程修了
2007年 筑波大学数理物質系教授 現在に至る
2024年 日本学術会議数理統計学分科会委員長 現在に至る
2025年 統計関連学会連合理事長 現在に至る
研究分野:
統計科学,数理科学,高次元統計解析
受賞:
日本統計学会賞 2017年
文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)2020年

過去の会長・理事長就任挨拶(2017会計年度以降)

  • 賛助会員
  • 統計関連メーリングリスト
  • 統計教育委員会
  • 統計検定

〒101-0051
東京都千代田区神田神保町3-6
能楽書林ビル5F
(公財)統計情報研究開発センター内
TEL & FAX:03-3234-7738

メールでのお問い合わせ