English

2015年度学会賞受賞者の紹介

第 20 回 日本統計学会賞

久保川 達也 氏美添 泰人 氏

第 11 回 日本統計学会統計活動賞

(該当なし)

第 11 回 日本統計学会統計教育賞

独立行政法人統計センターにおける教育用擬似ミクロデータの開発チーム、 峰野 宏祐 氏

第 9 回 日本統計学会研究業績賞

加藤 昇吾 氏、 黒住 英司 氏

第 8 回 日本統計学会出版賞

金 明哲 氏、共立出版 (『「Rで学ぶデータサイエンス 全20巻 (既刊17巻)』

第 29 回 小川研究奨励賞

平野 敏弘 氏




第 20 回 日本統計学会賞 
受賞者氏名 久保川 達也 氏
略歴 1982年 筑波大学第一学群自然学類卒業、1987年 筑波大学大学院博士課程数学研究科修了(理学博士)、1987年 筑波大学数学系助手、1989年 東京大学工学部計数工学科講師、1994年 東京大学経済学部助教授、1996年 東京大学大学院経済学研究科助教授、2001年 同 教授(現在に至る)
授賞理由 久保川達也氏は統計的推測の分野で幅広く活躍され、特に縮小型推定、小地域推定、モデル選択、逐次解析などの問題群に対して統計的決定理論の枠組みから接近し顕著な業績を挙げた。特筆すべき業績として、2つの推定量のリスク関数の差を積分表現するというIERD法があるが、その扱いやすさから多様な推定問題に応用可能であり、推定量を改良する上で非常に強力なツールとなっている。また、高次元多変量解析や小地域推定などの応用を通じて縮小型推定法の有用性を示したものもあり、理論と応用の両面から縮小型推定手法の世界を深め広げてきた点は評価される。さらに、日本統計学会理事や会報担当理事,欧文誌編集委員長などを歴任し、若手統計学研究者の育成にも尽力されてきた。
同氏のこのような統計学界の発展及び普及に対する多大な貢献は、日本統計学会賞にふさわしいものである。
主要業績 [1] Admissible minimax estimation of a common mean of two normal populations. Annals of Statistics, 1987, Vol.15, 1245-1256.
[2] The Stein paradox in the sense of the Pitman measure of closeness. Annals of Statistics, 1989, Vol.17, 1375-1386. Coauthored with P.K. Sen and A.K.Md.E. Saleh.
[3] A unified approach to improving equivariant estimators. Annals of Statistics, 1994, Vol.22, 290-299.
[4] Estimation of the precision matrix of a singular Wishart distribution and its application in high dimensional data. Journal of Multivariate Analysis, 2008, Vol.99, 1906-1928. Coauthored with M.S. Srivastava.
[5] Conditional and unconditional methods for selecting variables in linear mixed models. Journal of Multivariate Analysis, 2011, Vol.102, 641-660.


第 20 回 日本統計学会賞 
受賞者氏名 美添 泰人 氏
略歴 1969年 東京大学 経済学部 経済学科 卒業,1975年 東京大学大学院経済学研究科 博士課程 修了,1978年 Harvard University, Graduate School of Arts and Sciences 修了 (Ph.D.),1978年 立正大学経済学部 講師,助教授,教授,1992年 青山学院大学 経済学部 教授,2015年 青山学院大学経営学部プロジェクト教授,2015年 青山学院大学名誉教授;1994年 経済企画庁 景気基準日付検討委員会委員(現在に至る.1999年 景気動向指数研究会に改称、2001年 内閣府 経済社会総合研究所に移管),1996年 統計審議会委員(2003年まで),2005年 統計審議会会長(2007年まで),2007年内閣府統計委員会委員(2009年まで);1994年 日本統計学会 理事長,2009年 日本統計学会会長
授賞理由 美添泰人氏は,多年にわたり,経済統計の研究と実務の両面に尽力した.とりわけ、ミクロデータによる実証研究およびその背景をなす理論研究は,諸外国に比べて立ち遅れていたこの分野の研究を促進する原動力となった.また,これらの研究面での成果を,公的統計改革において実地に活用することによって,わが国の公的統計の整備・発展に大きく貢献した.さらに,大学間連携共同教育推進事業「データに基づく課題解決型人材育成に資する統計教育質保証」の代表校の担当者として,統計教育の質向上に取り組んでいる.日本統計学会理事長および会長として,学会の法人化など,学会運営の安定化・円滑化にも注力した.
美添泰人氏の統計学の発展及び普及に対する多面な貢献は,日本統計学会賞にふさわしいものである.
主要業績 [1] 美添泰人(2012)「統計制度改革の意義と今後の課題」『日本統計学会誌』第41巻シリーズJ 337-340ページ.
[2] Yoshizoe, Y. (2011), “Economic Statistics,” in: Lovric, M., ed. (2011), International Encyclopedia of Statistical Science, Springer, pp. 417-421.
[3] 美添泰人(2011) 「公的統計における頑健統計学の利用と景気動向指数」『景気とサイクル』第51号81-97ページ.
[4] 美添泰人・元山斉・古隅弘樹(2009)「法人企業統計データを利用した地域経済活動指数作成の試み」『統計数理』第57巻305-329ページ.
[5]美添泰人(2001)「小地域統計の推定手法と応用」『経済研究』 第52巻 231-238ページ.
[6] Yoshizoe, Y. (1991), “Leverage Points in Nonlinear Regression Models,” Journal of Japan Statistical Society, 21, pp. 1-11.


第 11 回 日本統計学会統計教育賞 
受賞者氏名 独立行政法人統計センターにおける教育用擬似ミクロデータの開発チーム(代表:山口 幸三氏)
略歴 2009年 教育用擬似ミクロデータの開発を開始
2010年 作成方法を検討し、学会等を通じて意見等の聴取
2011年 作成方法を確定し、データを作成、8月に試行提供を開始
授賞理由 開発チームは、以下に述べる本データの特徴及び利活用の実績から、日本における統計教育発展への多大なる貢献に加え、統計教育の高度化に資するものとなっており、高く評価することができる。
1.個票データ(調査票情報)から集計した高次元のクロス集計表を基に擬似的なミクロデータを作成し、原データに近い集計表や統計量が復元できるようにした。
2.このため、従来の調査票情報や匿名データでは困難であった大学の大規模授業における統計教育演習でのミクロデータ使用が容易になった。2011年8月の試行提供開始以来、多くの大学で実際に利用されている。
3. SAS、SPSS、R等の統計パッケージを用いたコンクールや講習会へのデータ提供も積極的に行っている。
4.本データの開発方法は、「公的統計の整備に関する基本的な計画」(平成26年3月)に記された「一般用ミクロデータ」の基礎となるものであり、今後さまざまな統計コンテンツに活かされることにより国民の統計への関心を飛躍的に向上させる可能性を有している。
山口氏を代表とするチームのこれらの活動は統計教育のこれからの発展に大きく貢献するものであり、統計教育賞にふさわしいものである。
主要業績 @ 山口幸三、伊藤伸介、秋山裕美(2013)「教育用擬似ミクロデータの作成−平成16年全国消費実態調査を例として−」、『統計学』第104号、経済統計学会,PP.1-15.
A 秋山裕美、山口幸三、他(2012) 『教育用擬似ミクロデータの開発とその利用−平成16年全国消費実態調査を例として−』(独立行政法人統計センター製表技術参考資料16)
B 山口幸三、他(2012) 「教育用擬似ミクロデータの提供における現状と課題について−アンケート結果を踏まえて−」、2012年度統計関連学会連合大会、平成24年9月9日〜12日、北海道大学
C 伊藤伸介(2013)「Development of Synthetic Microdata for
Educational Use in Japan」、IASE/IAOS(ISIサテライト会合)、平成25年8月22日〜24日、マカオ


第 11 回 日本統計学会統計教育賞 
受賞者氏名 峰野 宏祐 氏
略歴 2009年 静岡大学教育学部卒業
2011年 横浜国立大学大学院教育学研究科修了
2011年 神奈川県立柏陽高等学校教諭
2013年 東京学芸大学附属世田谷中学校教諭(現在に至る)
授賞理由 峰野氏は、近年統計教育の分野でも注目されているモデリングに関する研究を大学院生時代から精力的に行っている。特に、数学的モデリングの指導における、「たたき台→修正」を軸としたモデルの構築過程に焦点を当て、その発想を統計手法の導入場面の指導に活かす方法について取り組んでいる。また、統計教育方法論ワークショップや科学教育学会等において、生徒の中にある統計に関わる素朴な概念を表出させ、それらを目的に応じて定式化していく指導法の提案やその発想を軸にした統計教育カリキュラムについての検討結果を発表するなど、その成果を発信し、多くの先生方と共有しており、今後の統計的な概念の定着や統計的なモデリングを取り入れた統計教育の推進に大きな役割を果たしてきている。
峰野氏のこれらの活動は統計教育のこれからの発展に大きく貢献するものであり、統計教育賞にふさわしいものである。
主要業績 @Kosuke Mineno, Yuka Nakamura, and Tomoyoshi Ohwada(2012). Characterization of the intermediate values of the triangle inequality. Mathematical Inequalities & Applications volume15, pp.1019-1035.
A冨田真永・峰野宏祐(2013). 「ファーストフードのポテトの重量を比較しよう」.柗元新一郎 編著『統計指導を極める』. 明治図書. pp. 138-141.
B峰野宏祐・冨田真永(2014). 「中・高等学校における統計領域の系統案に関する一考察—生徒の問いと,そこから生じる活動に焦点を当てて―」. 日本数学教育学会誌96(1). pp. 60-63.
C峰野宏祐・冨田真永(2014). 要約統計量・グラフ表現を関連づけた四分位数・箱ひげ図の指導についての研究. 統計教育実践研究. 5. pp.119-124.
D峰野宏祐(2014). 「数学的モデリングの授業実践における検討課題に関する事例的考察」. 第38回日本科学教育学会年会論文集. pp.41-44.
E峰野宏祐(2015). 数学モデリング教材「桜の開花予想」の統計的観点による一考察. 統計教育実践研究. 6. pp.163-168.


第 9 回 日本統計学会研究業績賞 
受賞者氏名 加藤 昇吾 氏
略歴 2003年 慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業,2007年 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士課程修了(博士(理学)),2007年 慶應義塾大学大学院理工学研究科特別研究助教,2008年 統計数理研究所予測発見戦略研究センター特任研究員,2009年 統計数理研究所数理・推論研究系助教,2014年統計数理研究所数理・推論研究系准教授,現在に至る.
授賞理由 加藤昇吾氏は,統計学関連の影響力の大きい学術誌上に論文を多数出版してきている.氏は,主たる研究として,方向統計学の分野において円周上,シリンダー上、トーラス上の新しい分布を多数提案し,分布の詳しい性質を調べてきた.円周上の分布においては,単位円周からそれ自身への変換であるMöbius変換の角度分布への利用についていくつかの研究を行い,一つにはvon Mises分布に従う確率変数をMöbius変換して得られる分布の性質を詳しく論じ,回帰や確率過程への応用という道を切り開いた.また,巻き込みCauchy分布の一般化に成功し,和に関して再生性をもつ新しい非対称分布を提案した.氏はMöbius変換をトーラス上の分布の構成において利用する研究も行っており,氏の研究対象は拡がりを持って本分野に大きく影響を与えている.以上の通り,加藤氏の業績は,方向統計学の分布論の分野における発展に大きく貢献しており,日本統計学会研究業績賞として顕彰するに相応しいものである.
主要業績 [1] Kato, S. (2010). A Markov process for circular data. Journal of the Royal Statistical Society: Series B (Statistical Methodology), 72, 655-672.
[2] Kato, S. and Jones, M.C. (2010). A family of distributions on the circle with links to, and applications arising from, Möbius transformation. Journal of the American Statistical Association, 105, 249-262.
[3] Kato, S. and Jones, M.C. (2013). An extended family of circular distributions related to wrapped Cauchy distributions via Brownian motion. Bernoulli, 19, 154-171.
[4] Kato, S. and Jones, M.C. (2015). A tractable and interpretable four-parameter family of unimodal distributions on the circle. Biometrika, 102, 181-190.
[5] Kato, S. and Pewsey, A. (2015). A Möbius transformation-induced distribution on the torus. Biometrika, doi:10.1093/biomet/asv003.


第 9 回 日本統計学会研究業績賞 
受賞者氏名 黒住 英司 氏
略歴 1992年 一橋大学経済学部卒業,1997年 一橋大学院経済学研究科修士課程修了,2000年 一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士),2000年 一橋大学大学院経済学研究科講師,2003年一橋大学大学院経済学研究科助教授,2009年一橋大学大学院経済学研究科教授,現在に至る.
授賞理由 黒住英司氏は近年時系列データおよびパネルデータにおいて構造変化を伴う場合の統計的検定方法、モデル選択方法に関して顕著な業績を上げている。検定に関しては、トレンドのような非斉次な説明変数を持つ回帰モデルにおいてパラメータが変化する可能性があるとき、従来のワルド型の検定統計量の帰無仮説の下での極限分布を明らかにし、効率的な有意水準の計算方法を提案している。またワルド型検定、CUSUM検定の構築に必要となる未知パラメータに対して、よりバイアスの少ない推定量を提案し、それに基づいた検定統計量ではこれらに比べsize-distortionが大きく改善することを示した。さらにパネルデータに対しては、個人ごとに説明変数および誤差項の時系列構造が異なる場合について局所最良不変あるいは一点において最適な検定統計量を導いている。一方モデル選択方法に関しては、多変量回帰モデルにおいてAIC, BIC, Mallows’ Cpなどの情報量規準を構造変化の回数も考慮して修正した規準を提案し、その優劣を明らかにしている。以上の研究は、構造変化を伴うデータの実証分析に対しても大きな貢献であり、日本統計学会業績賞として顕彰するにふさわしいものである。
主要業績 [1]Kurozumi, E. and Tuvaandorj, P. (2011). Model selection criteria in multivariate models with multiple structural changes. Journal of Econometrics, 164, 218-238.
[2]山崎大輔氏・黒住英司(2014)「レベル・シフトの検定と検出力の非単調性」日本統計学会誌シリーズJ.
[3]Kurozumi, E. (2015), Testing for multiple structural changes with non-homogeneous regressors. Journal of Time Series Econometrics 7, 1-35.
[4]Yamazaki, D. and Kurozumi, E. (2015). Improving the finite sample
performance of test for a shift in mean. Journal Statistical Planning and Inference. Forthcoming.


第 8 回 日本統計学会出版賞 
受賞出版物 Rで学ぶデータサイエンス 全20巻 (既刊17巻)
受賞者氏名 金 明哲 氏、共立出版
略歴
(金 明哲 氏)
1994年総合研究大学院大学数物科学研究科統計科学専攻博士課程修了,1995年札幌学院大学社会情報学部助教授,1998年札幌学院大学社会情報学部教授,2005年同志社大学 文化情報学部教授,博士(学術).
授賞理由 近年,統計科学の環境は大きく変化している.データの収集の方法は多様化され,データのサイズがますます大きくなり,データの流通は容易に,統計計算やシミュレーションに必要となるコンピュータがますます安価になっている.そしてデータマイニングや統計的機械学習のような新しい研究分野も生まれた.これらの共通点はデータを対象としていることであり,本シリーズではこれらを包含する用語としてデータサイエンスを用いる.
このような状況において,フリーの統計解析ソフトウェアRは,統計学研究者にとって基礎教養の一つとなっているばかりではなく,多くの分野の統計学利用者に広く利用されている.本シリーズは第一線の研究者が高度なデータサイエンスに関する理論を系統的に説明し,その方法をRで実践するという,理論と実践を両立したものが多くなっている.また本シリーズでカバーされている範囲は広く,手法に関するもの(カテゴリカルデータ解析,多次元データ解析,ブートストラップ,マシンラーニング,樹木構造,一般化線型モデル,視覚化など)から種々の応用分野(経営,マーケッティング,地理空間データ,計量政治,社会調査など)までを扱っている.そのため広い範囲の読者にとって有用なRとデータサイエンスの参考書群となっている.本シリーズは日本におけるRと統計学・データサイエンスの普及に重要な貢献をなしており,日本統計学会出版賞としてとして顕彰するに相応しいと考える.


第 29 回 小川研究奨励賞
受賞者氏名 平野 敏弘 氏
受賞論文 Hirano, T. (2014) “Pseudo Best Estimator by a Separable Approximation of Spatial Covariance Structures,” Journal of the Japan Statistical Society, Vol. 44, No. 1, pp. 43-71.
受賞論文の評価 空間統計学において線形回帰モデルは基本的な統計手法として広く使用されている.しかし,大規模空間データに対する一般化最小二乗推定量は誤差項の共分散行列の逆行列を含んでいるので,サンプルサイズが大きい時その計算時間は極めて大きくなる.
今回受賞対象となった平野氏の論文では,誤差項が空間相関を持ち,格子点上でデータが観測される場合の線形回帰モデルにおける回帰係数の推定に対して,ある種の擬似最良推定量が提案された.この推定量に含まれる逆行列は,自己回帰過程によって表現される共分散行列の逆行列のクロネッカー積で表現されるため大規模空間データに対する高速計算が可能となる.受賞論文ではGrenander and Rosenblatt (1957)による時系列データに対する漸近論を格子点上のデータに拡張したYajima and Matsuda (2008)に基づいて,この擬似最良推定量の漸近分散の導出を行った.これは,部分的であるが,Rozanov and Kozlov (1969),Amemiya (1973) ,Engle (1974)などの結果の空間統計学への拡張と見なすことができる.数値実験はこの提案手法の妥当性を支持している.
空間統計学の理論的研究は実用面,応用面からも重要なトピックであるが,その分野に貢献した受賞論文は日本統計学会賞小川研究奨励賞にふさわしい論文である.