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2014年度学会賞受賞者の紹介

第 19 回 日本統計学会賞

江口 真透 氏、 杉山 高一 氏

第 10 回 日本統計学会統計活動賞

(該当なし)

第 10 回 日本統計学会統計教育賞

橋本 三嗣 氏、 前川 恒久 氏

第 8 回 日本統計学会研究業績賞

笠原 博幸 氏・下津 克己 氏(共同受賞)、 増田 弘毅 氏

第 7 回 日本統計学会出版賞

青木 敏 氏・竹村 彰通 氏・原 尚幸 氏(共同受賞)

第 28 回 小川研究奨励賞

鎌谷 研吾 氏



第 19 回 日本統計学会賞 
受賞者氏名 江口 真透 氏
略歴 1977年3月 大阪大学理学部数学科卒業, 1979年3月 大阪大学大学院基礎工学研究科数理系修士課程修了, 1983年12月 大阪大学大学院基礎工学研究科数理系博士課程中退, 1984年1月 広島大学 理学部 助手, 1988年4月 島根大学 理学部 講師, 1990年6月 同助教授, 1995年4月 統計数理研究所 統計基礎研究系 助教授, 1996年4月 同教授, 2005年4月 統計数理研究所 数理・推論研究系 教授
授賞理由  江口真透教授は,統計学の様々な理論研究の発展に寄与するとともに,多くの研究者に影響を与えている.特に注目すべき点としては,相対エントロピーを含め,様々なダイバージェンスに基づいて統計的手法にアプローチすることにより,様々な手法に対して統一的な観点や新しい切り口を見出されたこと,また,機械学習に統計学の視野からアプローチし,同時に,古典的な統計学に機械学習のコンセプトを導入したことが挙げられる.さらに,理論研究を行うに当たって,実データも強く意識されていたことは特徴的である.Prof. Copas との共同論文は,既に日本統計学会研究業績賞にも選ばれている.また,多くの博士号取得者を輩出していることに加えて,日本の多くの若手統計学者に機械学習への興味を抱かせ影響を与えた.
 同氏のこのような統計学の発展および普及に対する多大な貢献は,日本統計学会賞にふさわしいものである.
主要業績 [1] Second order efficiency of minimum contrast estimators in a curved exponential family, Ann. Statist., 11, 793-803, 1983.
[2] A class of local likelihood methods and near-parametric asymptotics, J. R. Statist. Soc. B, 60, 709-724, 1998. Coauthored with J. Copas.
[3] A class of logistic-type discriminant functions, Biometrika, 89, 1-22, 2002. Coauthored with J. Copas.
[4] Information geometry of U-Boost and Bregman divergence, Neural Computation, 16, 1437-1481, 2004. Coauthored with N. Murata, T. Takenouchi, and T. Kanamori.
[5] Local model uncertainty and incomplete data bias (with discussion), J. R. Statist. Soc. B, 67, 459-512, 2005. Coauthored with J. Copas.


第 19 回 日本統計学会賞 
受賞者氏名 杉山 高一 氏
略歴 1963年 東京理科大学 理学部 卒業, 1965年 東京理科大学大学院 理学研究科 修了, 1965年 青山学院大学 理工学部 専任講師, 1971年 川崎医科大学 助教授, 1974年 文部科学省・統計数理研究所 研究指導普及 室長, 1980年 中央大学 理工学部 教授, 1999年 中央大学大学院 理工学研究科長, 2010年 中央大学 名誉教授、創価大学 客員教授
授賞理由  多変量解析の理論研究において多くの優れた研究業績を挙げた.特に,主成分分析に関連する分野を中心として成果を得ている.大学院生のとき2変量正規母集団における一般的な母共分散行列における固有ベクトルの分布を導出し,その後,p次元へと一般化した結果を導出している.固有ベクトルだけではなく,主成分分析で重要な最大固有値や最小固有値に関する分布論についても,成果を挙げている.近年では、高次元標本についての主成分分析に関連する分野やbootstrap法やpermutation法などの計算機を用いた多変量解析でも成果を得ている.また,日本統計学会理事長,会長の重責も果たし,その後も日本統計学会75周年記念事業委員長として,統計学界の発展に大きく貢献した.
 杉山高一氏のこのような統計学の発展及び普及に対する多大な貢献は,日本統計学会賞にふさわしいものである.
主要業績 [1] On the distribution of the largest latent root and the corresponding latent vector for principal component analysis. Ann. Math Statist., 37(4), 995-1001, 1966.
[2] On the distribution of the largest latent root of the covariance matrix. Ann. Math Statist., 38(4), 1148-1151, 1967.
[3] Distributions of the largest latent root of the multivariate complex Gaussian distribution, Ann. Inst. Statist. Math., 24, 87-94, 1972.
[4] Recurrence relations of coefficients of the generalized hypergeometric function in multivariate analysis, Comm. Statist. Theory Methods, 28, 825-837, 1999. Coauthored with M. Fukuda and Y. Takeda.
[5] 「多変量データ解析入門」(1983),朝倉書店.
[6] 「統計データ科学事典」(2007),朝倉書店.


第 10 回 日本統計学会統計教育賞 
受賞者氏名 橋本 三嗣 氏
略歴 1997年 広島大学教育学部教科教育学科数学教育学専修 卒業, 1999年 広島大学大学院教育学研究科教科教育学(数学科教育)専攻博士課程前期修了, 2002年 広島大学大学院教育学研究科 教科教育科学(数学科教育)専攻博士課程後期 単位取得退学, 2002年 広島県立尾道北高等学校教諭, 2006年 広島県立大和高等学校教諭, 2008年 広島大学附属中・高等学校教諭(現在に至る)
授賞理由  橋本氏は,教育実践例の少なかった中学校や高等学校の数学科における統計内容において,積極的に授業開発に取り組んできている.特に,「実践的な問題解決場面を想定して,どのように統計的なアプローチを進めていくのか」という難しいテーマに対して,問題解決能力の育成を目指したBorland Mathの教材を利用した授業づくりに取り組んだり,データスタジアムのプロ野球データを用いた学生コンペティションを授業に取り入れたりするなど,これまでにない新しい形の統計教育の方法に取り組んでいる.その中で,生徒が主体的に活動する統計の授業を構想・実施し,生徒の反応をもとに教材と指導方法の両面について詳細に検討している.また,それらの研究成果を全国算数・数学教育研究大会や統計教育方法論ワークショップで発表し,理数系教員指導力向上研修会でも講師を務めるなど,新しい形の統計教育を目指す先生方に大きな影響を与えており,今後の問題解決を目指した統計教育の推進に大きな役割を果たしてきている.
 橋本氏のこれらの活動は統計教育のこれからの発展に大きく貢献するものであり,統計教育賞にふさわしいものである.
主要業績 @橋本三嗣(2012) 「データの分析の指導−相関を中心にして−」,『統計教育実践研究』第4巻 pp.112-115.
A橋本三嗣(2012) 「問題解決能力を培う学習活動の工夫−Bowland Math.の教材を用いて−」,第94回全国算数・数学教育研究(福岡)大会 p.360.
B橋本三嗣(2013) 「学びの質を高める「資料の活用」の授業−バスケットボールのフリースローを題材にして−」,『統計教育実践研究』第5巻 pp.117-120.
C橋本三嗣(2013) 「数学的活動を生かした「データの分析」の指導−グループ活動における思考の深まりについて−」,第95回全国算数・数学教育研究(山梨)大会 p.386.


第 10 回 日本統計学会統計教育賞 
受賞者氏名 前川 恒久 氏
略歴 1967年 日立製作所工事部門(日立工事)入社, 1983年 広報課長,研修センター講師(QCサークル地区活動への参加), 1988年 人事本部・全社経営改革運動事務局 MI(Management Innovation)推進センター長, 2002年 2002年度QCサークル関東支部京浜地区代表幹事, 2005年 株式会社アイネス入社(リスク管理室 兼 研修センター講師), 現在 QCサークル関東支部京浜地区顧問(QCサークル上級指導士)
授賞理由  前川氏は,QCサークル上級指導士(日本科学技術連盟による認定資格)としての産業界における統計的問題解決力育成指導の経験と実績に基づき,今回の学習指導要領改訂に伴う教育現場の支援を積極的に行っている.特に,理数系教員指導力向上研修(香川県,広島県)での講演や,JSTによるスーパーサイエンスハイスクールおよびサイエンスパートナーシッププログラムによる高校現場での講演をはじめとして,中学校から大学まで幅広い校種で講演を行うなど,積極的に統計教育の普及活動を行ってきた.特に,前川氏が企業在職中に品質管理基礎研修のために考案した紙飛行機演習,それを小中高の学校教育用にアレンジした「折り紙の犬の顔によるデータに基づく問題解決」演習教材は,「統計」関連の授業を行う際の基本となる"データ"の採り方からデータの変動要因の具体的な探索と結果をアクションに活かす過程まで,児童・生徒が楽しみながら学ぶことができる教材として,高い評価を得ており,「標準化と品質管理」や「週刊教育資料」等で取り上げられている.
 前川氏のこれらの活動は,企業での実践的な統計の活用を学校教育に反映させる意味で非常に価値のあるものであり,統計教育賞にふさわしいものである.
主要業績 @前川恒久(2012)「統計リテラシー開発に必要な実践的教材」,日科技連出版社発行,『問題解決学としての統計学」渡辺・椿編著,第5章,P138〜P188.
A前川恒久(2013)「新・シゴトの基本〜社会人の自覚と責任」,日本規格協会発行,月刊『標準化と品質管理』,2013年4月号,P2〜P20.
B前川恒久(2013)「小中高学校の先生向け〜折り紙を折って測ってみたらバラバラ」,日本統計教育委員会発行,理数系教員授業力向上研修予稿集(香川・広島).
C前川恒久(2014)「折り紙を折って、測って、データを採ろう!」,『統計教育実践研究』第6巻,P51〜P56.


第 8 回 日本統計学会研究業績賞 
受賞者氏名 笠原 博幸 氏 ・ 下津 克己 氏(共同受賞)
略歴 笠原博幸 
1995年 筑波大学国際関係学類卒業, 1997年 筑波大学国際政治経済学研究科修士課程修了, 2002年 ウィスコンシン大学マジソン校経済学部Ph.D., 2002年 クイーンズ大学経済学部助教授, 2004年 ウェスタンオンタリオ大学経済学部助教授, 2009年 ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授, 2013年 同准教授. 現在に至る.
下津克己
1993年 東京大学教養学部卒業, 2000年 エセックス大学経済学部講師, イェール大学経済学部Ph.D., 2003年 クイーンズ大学経済学部助教授, 2008年 同准教授, 2009年 一橋大学大学院経済学研究科教授, 2011年 東京大学大学院経済学研究科教授.現在に至る.
授賞理由  両氏は主として有限混合分布モデルの識別性に関する顕著な業績を近年修めている.動学的離散選択の異質性を説明するために用いられる様々な有限混合モデルにおいて,成分数や各成分の選択確率・分布等に関する識別性の条件を導出し,さらに多変量有限混合モデルにおいて,次元数が2以上であるときに観測データの分布関数から構築される行列の階数から,成分数の下限がノンパラメトリックに識別可能であることおよびその推定方法も示している.この他にも不動点制約のある構造モデルの逐次推定において,ネストされた疑似尤度アルゴリズムが一致推定量に収束する条件を導出し,さらにそれが収束しない場合に代替的な逐次推定法を提案するなど,計量経済学理論とその応用研究の発展に貢献している.
 以上により,両氏の業績は日本統計学会研究業績賞として顕彰するに相応しいものである.
主要業績 [1] Hiroyuki Kasahara and Katsumi Shimotsu (2014), Nonparametric identification and estimation of the number of components in multivariate mixtures," Journal of the Royal Statistical Society: Series B, 76(1), 97-111.
[2] Hiroyuki Kasahara and Katsumi Shimotsu (2012), "Sequential estimation of structural models with a fixed point constraint," Econometrica, 80(5), 2303-2319.
[3] Hiroyuki Kasahara and Katsumi Shimotsu (2009), "Nonparametric identification of finite mixture models of dynamic discrete choices," Econometrica, 77(1), 135-175.


第 8 回 日本統計学会研究業績賞 
受賞者氏名 増田 弘毅 氏
略歴 1999年 早稲田大学理工学部情報学科卒業, 2001年 東京大学大学院数理科学研究科修士課程修了, 2004年 東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了(数理科学博士), 2004年 九州大学大学院数理学研究院助手, 2010年 九州大学大学院数理学研究院准教授, 2011年 九州大学マス・フォア・インダストリ研究所准教授,現在に至る.
授賞理由  増田弘毅氏はこれまで,ジャンプ型確率過程モデルに対する統計的漸近論の基礎構築において幅広く貢献してきている.とくに,ジャンプ型確率微分方程式からの高頻度データで現れる漸近特異性(Fisher情報量行列が常に退化)や,固定期間でのトレンド構造の一致推定可能性など,拡散過程モデルの場合とは著しく異なる現象が起こることを解明した.これは尤度解析の適用範囲を規定し,非正規性を有するデータ解析の理論に新たな知見を与えるものであり,実証研究への影響も大きい.増田氏の研究対象は統計解析の理論と実装のためのツールの整備にも及び,とくにジャンプ型確率微分方程式の長期安定性に関する基礎的な結果も導出している.それらは確率過程論でも標準的結果として位置づけられるが,これにより,例えばジャンプ型確率微分方程式の解の汎関数から成る統計量の漸近展開理論の為の本質的な十分条件の検証が可能となったため,統計的高次漸近論への多大な貢献でもある.
 以上の通り,ジャンプ型確率過程モデルの統計解析に関して幅広く貢献する増田氏の業績は,日本統計学会研究業績賞として顕彰するに相応しいものである.
主要業績 [1] Masuda, H. (2010), Approximate self-weighted LAD estimation of discretely observed ergodic Ornstein-Uhlenbeck processes. Electronic Journal of Statistics 4, 525-565.
[2] Kawai, R. and Masuda, H. (2013), Local asymptotic normality for normal inverse Gaussian L?vy processes with high-frequency sampling. ESAIM: Probability and Statistics 17, 13-32.
[3] Masuda, H. (2013), Asymptotics for functionals of self-normalized residuals of discretely observed stochastic processes. Stochastic Processes and their Applications 123, 2752-2778.
[4] Masuda, H. (2013), Convergence of Gaussian quasi-likelihood random fields for ergodic L?vy driven SDE observed at high frequency. Annals of Statistics 41, 1593-1641.


第 7 回 日本統計学会出版賞 
受賞出版物 "Markov Bases in Algebraic Statistics", 2012, Springer.
受賞者氏名 青木 敏 氏 ・ 竹村 彰通 氏 ・ 原 尚幸 氏(共同受賞)
略歴
(青木 敏 氏)
2000年東京大学大学院工学系研究科博士課程退学,2000年東京大学大学院工学系研究科助手,2005年鹿児島大学理学部准教授,博士(情報理工学).
略歴
(竹村 彰通 氏)
1982年米国スタンフォード大学大学院統計学科修了,1984年東京大学経済学部助教授,1997年同教授,2001年東京大学大学院情報理工学系研究科教授,Ph.D.
略歴
(原 尚幸 氏)
1999年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了,1999年東京大学大学院工学系研究科助手,2011年新潟大学経済学部准教授,博士(工学).
授賞理由  本書は代数統計学において中心的な話題であるマルコフ基底について,著者達の研究成果を含めて理論の全体的な解説を与えた図書であり,洋書を含めても,現状で唯一の体系的な教科書である.
 第一部では,まず独立性の正確検定を例題として,マルコフ基底の概念が無理なく導入されている.さらに,マルコフ連鎖モンテカルロ法やグレブナー基底の基本事項が要領よくまとめられている.第二部では,統計モデルとトーリックイデアルの対応や,マルコフ基底とトーリックイデアルの生成系の同値性を主張する Diaconis-Sturmfels の基本定理の詳しい証明などが与えられ,予備知識のない読者も代数統計の分野を基礎から学ぶことができる.第三部以降では,著者達のこの分野の研究成果の基づき,さまざまな分割表のモデルのマルコフ基底,応答変数が離散の場合の一部実施要因計画の正確検定のためのマルコフ基底,制約のある選択問題に対するマルコフ基底,などの具体形が与えられている.具体的な数値計算も例示され,マルコフ基底の実際問題への応用も配慮されている.
 以上のように,理論と応用のバランスがとられた本書は日本統計学会出版賞として顕彰するに相応しいと考える.


第 28 回 小川研究奨励賞 
受賞者氏名 鎌谷 研吾 氏
受賞論文 Kamatani, K. (2013) "The Order of Degeneracy of Markov Chain Monte Calro Method," Journal of the Japan Statistical Society, Vol. 43, No. 2, pp. 203-220.
受賞論文の評価  ベイズ統計学ではマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法が基本的なツールとして広く利用されている.一方でMCMC法の計算量はしばしば膨大となるので,計算量の軽減のため,データやモデルに応じて適切なMCMC法を選択する必要がある.今回受賞対象となった鎌谷氏の論文では,複数のMCMC法の比較手法が提案された.先行研究では,アドホックな基準を除けば,マルコフ連鎖のエルゴード性による大域的な評価が一般的であった.これに対し,受賞論文では古典的な漸近統計学にもとづき,モデルの正則性,非正則性に着目し,パラメータの漸近収束レートによる精密な方法が提案された.モンテカルロ法の理論的研究は実用面,応用面からも重要なトピックであるが,その分野に貢献した受賞論文は日本統計学会賞小川研究奨励賞にふさわしい論文である.